sue-aのブログ

消防/救急に関わる業務に携わっており、その時々に悩んでいたことを皆さんと共有したいです。一般の方々にも、意外と知られていない/誤解されている消防・救急のリアル事情を伝えます。

【救急隊の本音:体動困難編】2日前から動けなくなった⁈救急救命士が出会った”体動困難”の原因を考察!

「おじいちゃんが2日前から動けなくなったと救急要請された方がいました。実際に観察してみましたが、バレー徴候は陰性で、膝立ては自分ではできませんが、私たちが補助して膝立てさせると、保持することは可能です。

頭痛や吐き気の訴えはなくて、本人は「立てない、動けない」と訴えるだけでした。

話を詳しく聞くと、2日前に室内で転倒したそうで、左脛(すね)を床でぶつけたそうです。それから、動けなくなったと家族が話していました。

昨日は朝から起き上がれずベッドまで移動させるのを家族が手伝ってなんとか戻したそうです。今日もその状況が継続していたため救急要請に至ったと聴取しました。」

 

体動困難は、なにが原因なのでしょうか?

 

 

「今回の記事では”体動困難”の原因について一緒に探って行きたいと思っています。

実際に出動したリアルな救急事案です。」

 

 

まず結論からお伝えします。

「体動困難を呈する病気はたくさんあります!ある程度の診断をして適切な医療機関早期搬送を心がけましょう!」

 

「体動困難の原因を探っていくと言っていたのに、身も蓋もないのでは…💦」

 

今回は、体動困難の原因について話していきますが、大前提として救急隊の仕事は病名当てクイズではないです。

ですので、結論としては”適切な医療機関へ早期搬送”になります。

とはいえ、救急隊のリアル救急事案を振り返って、救急隊の思考法をブログから学べるのはメリットです。

救急隊をやっているあなたが、もしかしたら明日、同じような”体動困難症例”に出会うかもしれないからです。

それではいきましょう。

この記事を読むメリット

1. 体動困難の原因を理解できるようになる

2. 実症例に沿って原因を検索してみる!

3. とはいえ救急隊は”確定診断”するのが仕事ではない!

 

1. 体動困難の原因を理解‼

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救急現場へ向かうまで行うことは、緊急度・重症度を判断し、必要と判断したなら適切な医療機関に早期搬送する!

これが救急隊のもっとも大事なことです。

結論、体動困難も同じで生命に危険が及んでいるときは適切な治療を行える医療機関へ搬送しています。

その際に、鑑別が正確にできていなくても構いません。(すぐできることは大切ですがね…)

体動困難の原因についてピックアップしてみたので、一緒にみていきましょう。

体動困難の原因をピックアップ

カリウム血症など電解質異常

腰痛など整形外科疾患

頸椎損傷

急性薬物中毒

ギラン・バレー症候群

大動脈解離

慢性硬膜下血腫

脳血管障害

肺炎

尿路感染症

熱中症

敗血症

低血糖

てんかん

低栄養状態によるもの(癌の末期など)

あるいは、CPA(心肺停止状態)

 

こうやって思いつく(実際に遭遇してきた)疾患を表にまとめると、”体動困難”というだけでこれだけ想定しています。(もっと思いつく方もいるかもしれません。これくらいが限界💦)

 

 

「わたしたちは救急現場へ向かうまで、指令内容を確認して救急現場の傷病者に何が起きているのか予想しながら向かっています。」

 

しかし上記で疾患の一例を挙げましたが、体動困難の原因を救急現場で診断するのは非常に難しい。

これが正直なところです。

”体動困難と意識障害がセット”これには注意する!

体動困難には、

・どこかぶつけたなど負傷部位が痛くて動けない

・身体の中で不調が発生して動けない

このどちらかに大別できます。

では、どういったことを考えているといいのかってことにも触れていきます。

✓どこかぶつけたなど負傷部位が痛くて動けない

負傷によるものであるなら、負傷部位にどのような所見があるのかというのを検索していきます。

例えば

「路上で転倒し、腰部を負傷して動けない」

「路上で転倒し、足の付根を痛がっていて動けない」

これなら傷病者に起こっていることが思いつきそうです。

・腰椎圧迫骨折

・大腿骨頸部骨折

この辺りを想定して観察も行っていきます。

その際に注意していることは、転倒したのは事実ですが転倒前に前駆症状を伴っていたのか。

こちらを確認していきます。

例えば

「転倒したのは段差につまずいたからですか?それとも転倒したこと自体覚えていないですか?」

問診の仕方は人によって違いますが、”意識消失があったのか”は確認しておきたいです。

転倒などによる負傷は視覚的に確認できることが多いので、ものすごく迷うということは少ないです!

後は、患者背景で受入先が変わってくるので、そこには注意しています。

「腎不全で透析している傷病者の大腿骨頸部骨折疑い」

こういったケースです。

この方には、

・大腿骨頸部骨折の治療が必要

・プラスαで、腎不全に対して透析治療も継続して必要

この2つを診れる病院でないと受入できないのです。

とはいえ、そんな病院は少なく、一旦、整形外科単科の病院に受入してもらって、その後に転送といったこともこれまでありました。

✓身体の中で不調が発生して動けない

結論、こちらのケースのほうが考えることはめちゃ多くなります。

なぜなら、

・視覚的に判断できない

・バイタルサインや訴えなどを聴取して総合的に評価する必要が発生

上記の理由からです。

例えば

1.「自宅アパート2階の通路で倒れているところを訪問した包括支援センターの看護師が発見し、救急要請した」

2.「8時頃、妻が様子をみにいったところ、意識状態が悪く、会話不能及び体動困難であった。その後も様子をみていたが改善せず救急要請」

こういったパターンです。

情報が少なすぎですが、これって何を疑いますか?

はい。わからないですよね!というか様々な疾患を想定しなくてはいけないので1つに絞れないというのが実際のところじゃないでしょうか。

想定できる疾患は、脳卒中熱中症低血糖、肺炎や尿路感染による敗血症、大動脈解離、急性薬物中毒などを挙げてみました。

とはいえ情報が少なすぎなので鑑別できなかったという方もいるでしょう。

すみません。

答えは

熱中症

低血糖

でした。

1の症例で、包括支援センターが訪れた時期は8月。炎天下の中で倒れている。これなら予想できた方も多かったかもしれません。

2の症例で、「糖尿病の既往歴」を把握することができれば、血糖測定を行い低血糖を補正することを検討していたかもしれません。

正直いって、話すこともできない傷病者もいますし全く情報を掴めないケースも多々あります。

なので、くり返しになりますが

「身体の中で不調が発生して動けない」

こちらの方が考えることが多く、原因検索は難しいです。

2. 実際の救急事案から原因を検索してみる!

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「おじいちゃんが2日前から動けなくなったと救急要請された方がいました。実際に観察してみましたが、バレー徴候は陰性で、膝立ては自分ではできませんが、私たちが補助して膝立てさせると、保持することは可能です。

頭痛や吐き気の訴えはなくて、本人は「立てない、動けない」と訴えるだけでした。

話を詳しく聞くと、2日前に室内で転倒したそうで、左脛(すね)を床でぶつけたそうです。それから、動けなくなったと家族が話していました。

昨日は朝から起き上がれずベッドまで移動させるのを家族が手伝ってなんとか戻したそうです。今日もその状況が継続していたため救急要請に至ったと聴取しました。」

今回の振り返りをしていきましょう。

高齢男性

2日前から動けない

主訴「立てない、動けない」

2日前に転倒して、左脛を床でぶつけた

バレー徴候(-)

膝立ては、自分で保持できる

左脛は外傷なし。痛がる様子もなし。

このような情報が得られました。

結論は、

「転倒などによって動けないようだけど、骨折を疑わせる所見がない。」

これです。

先にお伝えした考え方でみてみると、

1.どこかぶつけたなど負傷部位が痛くて動けない

2.身体の中で不調が発生して動けない

情報から1が疑わしいですが、負傷部位を触っても痛がる様子もなく明らかな外傷がない…

2を疑わなければならない。

実際にどういった活動をしたのかというと、明らかな所見がなかったですが搬送を選択しています。

二次総合病院を選定し、総合検査の行える医療機関を選定しました。

下肢脱力の考え方

下肢脱力の考え方についても触れておきます。

○突然の背部痛and,or突然の両下肢の脱力(一過性も場合も含む)では、大動脈解離と脊髄硬膜外血腫の可能性を考慮すること。CTで大動脈解離の可能性が除外できたら、脊髄MRIでの精査が必要。抗凝固薬内服患者は特に脊髄硬膜外血腫のハイリスクだが、内服していない患者でもAVMや腫瘍からの出血などで発症する場合がある


○抗凝固薬内服患者の転倒・腰痛では骨折が無くても慎重な経過観察が必要、受傷後数時間経過して、両下肢の麻痺などが出現してくることがある(脊髄硬膜外血腫)

○ 一過性両下肢脱力(対麻痺)では①大動脈解離、②脊髄(胸髄レベル)のイベント(出血や梗塞など)の順で考えること。痛みがないから、現在神経所見が改善しているからといって安心してはいけない(無痛性+一過性対麻痺パターンのA型大動脈解離は結構多い)。D-dimerが上昇していれば必ず大動脈CTで精査を(大動脈が正常であれば脊髄MRIを)

 

 

「こういったものが考えられます。」

診断結果は… 

実際の結果についてですが、病院に到着して医師も確認しましたが、確定診断はつかず「下肢脱力」の診断名をサインしていただきました。

その1時間後、再び救急出動が…

出動先は、先ほど搬送した二次総合病院です!

CT検査の結果、「慢性硬膜下血腫」が発覚

夜間帯だったので、脳神経外科医当直の二次病院へ転院搬送となりました。

3. とはいえ救急隊は”確定診断”するのが仕事ではない!

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 結論は、慢性硬膜下血腫ということです。

よくよく話を聞いていくと、2ヶ月前に自転車走行中に転倒して自宅へ戻ったこともあったそうです。

病院嫌いで全く行っていなかったそうで、2ヶ月前に自転車で転倒した際も、病院にはいかなかったそう…

もちろん、”そのときの転倒が絶対の原因”とは言い切れないですが、高齢者の下肢脱力では慢性硬膜下血腫は見逃さないように!

これを学ぶことができました。 

でも、いちばん大事なことは”確定診断をつけることではなく、適切な病院へ早期搬送する”

これが救急隊の仕事です!

今回の症例を振り返ると、”病院選定に至る過程”は救急隊をやっている以上、学ばなくてはいけません。

どういった鑑別診断を行い、どういったプロセスでとりあえず診断に至ったのか…

こういった思考を身につけることは救急隊にとって大切!

今回の事案で言えば、

・整形単科の病院には連れていけない

・でも、脳血管障害を疑わせる決め手にかける

・このまま様子を見させる…ダメだ。実際に症状が出現していて、ここ数日で急激に悪化しているのだから何か起こっているはず

・バイタルサインは安定しているから緊急性はないにせよ、このまま不搬送にするのでは家族も納得しない

・わたしたち(救急隊)としても搬送したい

こういった過程を脳裏で浮かべ、頭の中で思考を巡らせています。

葛藤しているのです!

大体の救急出動では、検査結果まで聞くことなく引き揚げることがほとんど。

わたしたち救急隊の仕事は、実際にどういった治療まで行って家に帰れたのか、それとも入院になったのか詳しいことまでわかりません。

・追求しはじめたらきりがない(もはや医師になるしか解決できない!)

・でも、傷病者の対応を行い、適切な治療を行える医療機関へ搬送しなければならない

けっこう難しい仕事です💦

そのことを大前提として、救急隊として鑑別診断の正確性を高めていけるといいですね!

*救急隊の病院連絡に関しては父の運営するブログから学べます!

 

 

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